どさんこカメラ

北海道各地で撮った写真を掲載します。

ゴールデンカムイと手塚治虫「シュマリ」

最近、集英社の「ゴールデンカムイ」というマンガが流行ったおかげで、アイヌに関する情報が発信される場が増えてるみたいですね。

 

ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

ゴールデンカムイは週刊ヤングジャンプで2014年から連載が始まったマンガです。

 

舞台は明治後期の北海道。和人に対抗する資金源とするため、密かに砂金を集めていたアイヌ達。しかし砂金の輸送中、何者かにアイヌは殺害され、砂金が奪われます。

その犯人は、監獄の中で「埋蔵金の在りかを示す暗号図」を、他の囚人達の体に入れ墨として残します。

入れ墨をされた脱獄犯24名は脱獄。黄金の在りかを巡って、主人公達や囚人が争奪戦を繰り広げる・・。というお話です。

 

青年漫画らしい冒険譚に日露戦争、新撰組、土方歳三・・という堪らない組み合わせ。かわいいアイヌ少女、アシㇼパがかますギャグ。

読者のほうは頭の固い教科書よりそこからアイヌ文化を知ったりするんだよね。

 

 

さてここで、あれ?なんかこの話どこかで聞いたことある・・と思った方がいるでしょう。

囚人・・入れ墨に彫られた地図・・・

!!

プリズンブレイク!!!

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 ちがいますよ。古いし・・。

 

 

 

アイヌ・・隠された黄金・・土方歳三・・

そう、手塚治虫「シュマリ」ですよ。

手塚治虫「シュマリ」

「シュマリ」もアイヌが隠した黄金と、それを狙う強欲な人々のお話。

両マンガとも北海道を舞台に、アイヌが隠した砂金、実は生きていた土方歳三・・などいくつか共通するトピックスを持っています。

ただ、全体的なストーリーの系統としては全く別物です。ゴールデンカムイはゴールデンカムイ、シュマリはシュマリ。インスピレーションを与えた。という程度には言っていいかな?

 

ゴールデンカムイはギャグも多くて楽し気ですが、

「シュマリ」はどんなお話かというと、もうどろどろ。あらゆる欲望、金、暴力、血しぶき!

 

手塚治虫「シュマリ」での"黄金”とは・・

 

まずゴールデンカムイと違い、「シュマリ」では黄金はあくまでも主人公の人生の1エピソードです。

1エピソードであって、ストーリーの目的ではありません。

シュマリはもともと、江戸でサムライをしていました。とある理由から北海道にわたり、アイヌの長から「シュマリ(アイヌ語で狐)」という名前をもらって北海道で生きていきます。

北海道の原野を旅する目的は、黄金とか冒険とかカッコいいものではなく「他の男と逃げた妻を探す」という泥臭いもの。

 

妻に捨てられたにもかかわらず、シュマリはこの妻をどうしようもなく愛してて忘れられないんだから困った野郎です。

粗暴だけど決心は固く、好きなものは好き、守ると決めたものは守る。シュマリは善人ではないけど良い面もある。この漫画に出てくるのはそんな善悪混合の人間味あふれたキャラばかりです。

「シュマリ」では黄金の話と復讐劇は序盤であっさり終わり、そこから芋づる方式でどろどろ引っ張られるのは人間の欲の数々。いや裏を返せば、愛憎。愛と欲の間にある線はよく見るとグラデーション。

これを読んでる読者は、主人公や、ライバルとして登場する財閥、妻たち、どちらが良いとも悪いとも、きっと言えないはず。

少年漫画と違って、「ヒーロー」も「悪役」もいない、それがこの漫画です。

悪いとわかっていても情にほだされる女、自分の弱さを、他人を支配することで隠す男。好きだけど憎い。諦めと紙一重の母性・・・。そんな人間ドラマを壮大なスケールで描いているのがこの作品です。

 

シュマリが描かれている明治時代は北海道にとっても一種の過渡期でした。アイヌにとって「アイヌモシリ(人間の静かなる大地の意)」という誰の土地でもなかった場所に、「蝦夷地」という名が勝手につけられ、その蝦夷地も「北海道」にとって代わる。

歴史の過渡期に、望まずとも過去に追いやられていくもの。

かつてシュマリがしていた「侍」と呼ばれた職業も必要なくなる。

 

 

時代という嵐に消されていくもの、それをとりまくいつの時代も変わらない人間の欲望。「シュマリ」はそんな人間模様を北海道を舞台に描いています。

 

 でもシュマリはどんな時代が来ても、誰のいう事も聞かず自分の生きたいように生きていきます。

それが幸せなのかは別として。

 

 

シュマリは今読むと、それはないでしょ!とつっこみたくなる点もあります。多少不快に感じる点もあるかもしれませんが、そこは連載されたのが70年代という時代背景を考えないといけませんね・・。

 鉄腕アトム、ジャングル大帝を描いた「マンガの天才」といわれる手塚治虫だけど、そのマンガは結構精神的に重たい話が多かったりする。だから僕は体調の良くない時は読まないようにしてるもの。

シュマリ 1

シュマリ 1

 

アイヌが登場する数少ないマンガ、新旧2点でした。

シュマリの時代と違って、アイヌをモチーフにすることの敷居は低くなってきています。そこにきて登場したゴールデンカムイは、触らぬ神に祟りなし、という風潮を取っ払ってくれた作品だと思います。

四角四面の教科書より、「自分の好きなもの」としてアイヌ文化への興味が広がればいいですね。