どさんこカメラが夕張市に行ってきたよ。
今回向かったのは映画「幸福の黄色いハンカチ」のロケ地。
◇幸福の黄色いハンカチ
高倉健主演の「幸福の黄色いハンカチ」。夕張市で撮影されたあまりにも有名な映画です。監督は「男はつらいよ」シリーズでおなじみ山田洋次監督。1977年公開
名前は知ってるけど見たことない人も多いと思います。
自分もその一人だったんですが。夕張行き決まったので、についでに映画も見ておこう、くらいで見たら、面白かったんですねこれが。
主な登場人物は、網走刑務所から出所した元炭鉱員の勇作(高倉健)、博多から北海道へ旅行に来た鉄也(武田鉄矢)、同じく旅行に来た川崎出身の朱美(桃井かおり)の3人。
網走で出会った3人が一緒に旅をすることになり、赤いファミリアに乗って北海道を横断し、夕張へ向かいます。
ちなみに網走刑務所から夕張までGoogleMAPで調べましたら、距離にして300km以上、車で行くと5時間以上という結果が出ました。3人はいろんな場所に立ち寄っているのでもっとかかるかも。
3人はどうしてそんなに遠い夕張へ向かうのか?
刑期を終え出所した勇作は、別れた妻にこんなハガキを送ります。
「これから夕張に向かう。もしまだ一人暮らしでお前が俺を待っててくれるんだったら、うちの竿に黄色いハンカチをぶらさげておいてくれ。それが下がっていなかったら、俺はそのまま引き返して二度と夕張にはいかない」
なんとも潔く男らしい文章ですが、この文章こそが映画のすべてです。
お分かりと思いますが、このお話は旅先で出会った3人で、果たして勇作の奥さんが待っているかどうか?を夕張へ確かめに行くというお話なんですね。
不器用な勇作と妻(倍賞千恵子)の夫婦愛の再生物語ですが、たまたま一緒に旅をすることになった鉄也、朱美が笑いどころを持ち込んで、コメディー色もあるロードムービーに仕上がっています。
夕張の炭鉱は1990年、最後の鉱山が閉山し姿を消しました。かつては夕張を、というか空知地方のマチは炭鉱によって支えられ、労働者が街にあふれていました。
高倉健演じる勇作は、そんな夕張炭鉱で働いているという設定で、勇作の自宅である炭鉱住宅が3人の旅の目的地になります。
撮影で使われた炭鉱住宅が「幸福を希うやかた」として撮影当時のまま保存されています。
炭鉱住宅。一番奥が勇作の自宅という設定。空知地方では珍しい風景ではないかも?
でも中がちょっと違いますよ。
中に入ると壁一面に張られた黄色い紙が貼られ、ちょっとした異世界。黄色いハンカチにかけて、「黄色いメッセージカード」に願い事を書いて貼っていくようです。メッセージは自由に記入して貼れます。
夫婦愛を描いた作品がもとでこんな場所ができるとは監督も思いもしなかったでしょうが・・・
2014年に亡くなられた高倉健さんへの感謝のメッセージも多く見受けられました。
さて、勇作はどうして分かれた妻に「黄色いハンカチ」を目印にさせたのか。勇作夫婦の間で、黄色いハンカチはある目印として使われていたんですね。それがなんであるかは映画でご覧ください。
3人が乗った赤いファミリアも展示されています。撮影用に複数あったうちの1台。
この車は武田鉄矢演じる鉄也が失恋し、ヤケになって仕事を辞めたお金で購入する。という設定。鉄也は着る服も北海道で現地調達、朱美相手にむきになるしょうもない男です。
しかし勇作達との旅の中で、映画の後半にはちょっぴり成長しているというのも見どころ。
鉄也とは真逆で、腕っぷしが強くて男らしい勇作。寡黙で頼れる、俗に言う「男」のお手本のように描かれます。
しかし昭和の男のステレオタイプ。彼はとっても「不器用」なんですね。
映画の中でも勇作自身が「俺は不器用だから・・・」というセリフがあります。
(高倉健といえば「自分、不器用ですから・・」ってCMのイメージがついてますが、この映画のずっと後です。)
夫婦どちらかが不器用だったとしても、どちらかが大人になってあげて丸く収まっているケースはあると思います。それは大人になってあげている側が精神的、体力的に余裕のある時なら良いけど、精神的に大きなダメージを受け、身体的につらい状況だったら・・・。
たとえ奥さんがそんな状況でも、勇作の対応は不器用だったんですね。
映画をご覧いただけるとわかりますが、勇作のこの不器用さが、殺人、投獄、離婚・・・という連鎖呼んでしまいます。
でも自分で不器用と言っていた通り、自覚はあるわけだし奥さんを愛しているからこその行動だから見ている方もつらい。
ちなみにこの映画は、監督がアメリカのポップスグループ、ドーンの「幸せの黄色いリボン」という歌にインスピレーションを受けてつくられ、黄色いハンカチのイメージはそこからきています。(この歌にもさらに元ネタがあるんですが。)
この歌の歌詞は、服役していた男がバスで恋人のもとへ帰って行く中、もしまだ自分を必要としているなら、木に黄色いリボンを結んでおいてくれ。という映画の流れを作るような内容です。
ここは、3人の乗る赤いファミリアが、左折して夕張市内に入る場面で使われたT字路。
ちょうどメロン熊の看板のあたりに、映画では「炭内員募集」の看板が立っていいました。
「メロン熊」は夕張市のゆるキャラ。
旅の目的地がまだざっくりとしていた前半では腕っぷしも強い九州男児といった勇作ですが、いざ夕張行となると「もういないかもしれない・・」「やっぱりやめよう」と途端に弱気になってしまいます。
朱美のなかばおせっかいに応援されつつ、炭坑街を進んでいく場面は見ているほうも緊張。妻は待っているのか?もしかしたらいないかも・・
このドキドキの場面の間、車は夕張市内を進んでいくわけですが、炭坑町の坂道を上る間、たくさんの人、人、たくさんの店。もちろんエキストラも交じっていますが、夕張の当時の活気がよくわかります。昔はこんなににぎわってたんだね
炭坑で栄えた夕張市の人口は、最も多い時で11万6千人。映画公開時でもおよそ5万人の人口がありましたが、現在は1万人を切ってしましました。10年ほど前に財政破綻したのは周知のとおりです。
現在の夕張は、駐車場に草が生え、空き家、空き店舗。ズリ山(石炭以外の石の捨て場)は緑に帰ろうとしている。外国人観光客がひと塊で来てひと塊で去っていき、市民の姿は見えない。
これは夕張だけでなく、北海道の、かつて炭鉱マチと呼ばれた町すべてに共通する光景です。
生まれも育ちも夕張ではありませんが、映画を見てからここに来ると、知っていた町がさびれてしまったような、すこしさみしいような、不思議な気持ちになりました。
夕張にきた勇作は妻に会えたのか。
ラストは映画でご覧ください。
映画を見た後はぜひ夕張へ。