どさんこカメラ

北海道各地で撮った写真を掲載します。

トウキョウトガリネズミは東京にいないうえにネズミでもない。

「トウキョウトガリネズミ」という名前の生き物がいます。
世界で最も小さな哺乳類です。


全部カタカナで書くとわかりにくいのですが、東京都ガリネズミ ではなく 東京トガリネズミ です。
“トガリネズミ”という生き物の一種であります。

 

トウキョウトガリネズミはちょっと面白くて、「東京」と名がついているにもかかわらず東京には生息していません。わが国では北海道にだけ生息しおります。
もっとおかしなことに、トウキョウトガリネズミは、「ネズミ」と名乗っているにもかかわらずネズミですらありません・・。
というわけでこのヘンな生き物についてみていきたいと思います。


トウキョウなのに東京にいない

トウキョウトガリネズミが発見されたのは1903年(明治36年)。R.M.ホーカー氏によって捕獲され、その標本ラベルには採取地として「Inukawa,Yedo,Hondo(犬川、江戸本土)」と記されました。
それをもとに動物学者で華族の黒田長礼氏がこの生き物に「トウキョウトガリネズミ」という和名を付けました。
しかし、標本ラベルに記された「江戸本土の犬川」という地名はいったいどこでしょうか。東京に犬川という場所はないし、このトガリネズミは東京では発見されていません。

実はホーカーが記したラベルの筆記体inukawaをmukawa(北海道の鵡川)と間違え、さらにyedo(江戸)をezo(蝦夷)と間違えたのではないか‥‥という説が有力です。

 


ネズミじゃない

これがトガリネズミです。ちいさいものだと一円玉と同じくらいの大きさ。

ネズミみたいですがネズミではありません。


ちょっとややこしい話になるのですが、「ネズミ」と聞いて思いうかべるネズミは分類学上は「ネズミ目」。トガリネズミは「トガリネズミ目」という全く別の目です。


トガリネズミ目はかつて「モグラ目」と呼ばれていたのですが、いまはモグラ目という分類は使われなくなっています。というのもモグラ目の中でさらに分類できそう!という事がわかってきて、旧モグラ目はハネジネズミ目、ハリネズミ目などに分裂しました。
どんな研究もそうですが、研究して時代が下るうちに色んなことがわかるので、動物の分類が再編成されることはよくあります(恐竜でもそうですね)


というわけでイメージ的には、トガリネズミという生き物はネズミよりもモグラやハリネズミに近い動物です(ということはハリネズミもネズミではない・・)

 


生息地は鵡川のほか、釧路、浜中町、根室、標津などで発見されているそうです。
しかし研究が進められるくらいの数が見つかったのは近年になってから。
というのも1903年に最初の一匹が発見されて以来、なんと50年以上も「トウキョウトガリネズミ」の存在は確認できませんでした。
なので、もしかしてこんな生き物いないんじゃないか?みたいにずっと思われてたわけです。北海道で再び発見されたのは1957年、標茶町で9匹が確認され、それを皮切りに北海道内でトウキョウトガリネズミの生息が確認されていきます。

 

トガリネズミは非常に繊細な生き物で、突然死してしまうこともよくあるそうです。

生息地では道端に天に召されたトガリネズミが落ちていることもあるそうです。とても小さくて目に留まらないかもしれませんが・・
残念ながら北海道にいてもお目にかかることはほぼありません。

東京の多摩動物園では展示をしているそうですが、この展示は生態解明の目的も兼ねて札幌市の研究所と提携しているみたいです。そういった意味では我々がトウキョウトガリネズミを見られるのは東京なのかもしれませんが。

 

ちょっとおかしな名前がついてしまったのは、エゾとエド、ムカワとイヌカワを間違えたホーカー氏、はたまた黒川氏の所業なのかは知りません。

が、ホーカーが間違いに気づかなかったのは、それだけ彼らにとってまだ日本が未知の土地だったからでしょう。
同時にトウキョウトガリネズミという和名が変更されなかったのも、50年以上にわたり再び発見されることのなかった未知の生き物で、研究対象にすらならなかった証だと思います。

 

ちなみに黒川氏の名誉のために付け加えると、彼が最初につけた和名はトウキョウトガリネズミではなく、「ホーカーヒメヂネズミ」だったそうです。あとになって「トウキョウトガリネズミ」に改名しています。

その理由は、この生き物がいわゆる一般的なネズミではなく、トガリネズミという別の種類だという事に研究者として気づいたからでしょう。ホーカーにせよ黒川にせよ、当時の動物学を極めた研究者だったわけですからね。

 


何かと文句をつける人が多い世の中になってしまったので、「改名するべきだ!」なんて声が起こりそうですが、そういったアクシデントも含めて人間が動物を研究する歴史の面白さだと思います。
ミッキーだって千葉にいるんですから、いいんじゃないでしょうかね。