北海道大学教授・小林快次氏(以下小林先生)の「恐竜まみれ」を読んだのでご紹介。
著者である小林先生は日本を代表する恐竜研究者の一人です。
知らない人のために経歴をざっくりと以下に。
小林先生は福井県出身で、現在は北海道大学総合博物館教授&館長。
北海道むかわ町で日本初の全身骨格化石「むかわ竜(カムイサウルス・ジャポニクス)」の発掘指揮をとり、むかわ竜が新種であることを発表した方です。いつも北海道にいるわけでは無く、モンゴル、アラスカ、カナダなど一年のほとんどを世界を飛び回って恐竜発掘をしています。
夏休みのラジオ「子ども科学電話相談」でも恐竜先生として恐竜っ子たちにはおなじみの存在。世界的な学術書に論文を発表する日本を代表する恐竜学者です。
小林先生の本はいろいろ出てるんですが、今回は「恐竜の発掘ってどんな感じなの?」ていうことががっつり書いてあります。
恐竜の発掘っていうと「ジュラシック・パーク」みたいに、地面をさささーって掘ると焼き魚食べた後の骨みたいにきちんと繋がった恐竜の化石が出る!みたいなイメージなんですが、実際は違います。
ひたすら下を向いて化石を探して何キロも歩き、地面にはいつくばって掘る、しかも見つかる化石はバラバラ。超地味。というのが本当の発掘です。
そういった、「発掘に行かないとわからないこと」がたくさん書かれております。小林先生の場合は舞台が世界各地なんで、時にはアラスカで巨大グリズリーと鉢合わせしたり、砂漠で遭難しかけたり、ヘリコプターの墜落に怯えたりと、スケールがでーっかいです。恐竜学者というより冒険家のようなお話がたくさん読めます。
個人的には恐竜界の重鎮・フィリップ・カリー氏が登場してフツーに喋ってるのが面白かったです。
そのほかにも、先生が考える恐竜化石の売買問題についてや、あいつぐ盗掘問題、予算の関係なんかも垣間見えて、なるほど化石の発掘ってこういう問題もあるのねーってのがわかる一冊になっています。
「むかわ竜」もでるよ!
北海道むかわ町から発掘された「むかわ竜」発掘エピソードも、まるまる1章あてて発掘エピソードが描かれています。
むかわ竜の発掘の様子は、「ザ・パーフェクト」(土屋 健兼 著)という本に詳しいのですが、(これもめっちゃいい本なんで、むかわ竜に興味あってまだ読んでない人はぜひ読んでほしい)
「ザ・パーフェクト」で発掘エピソードが第三者視点でドラマチックに書かれてたのに対し、「恐竜まみれ」では小林先生の主観で、わりとコミカルに発掘の様子が書かれていますんで、また違う視点からむかわ竜発掘の様子がわかって面白いです。
「恐竜研究は人の役に立つか」
本書の中で小林先生は、「恐竜研究は人の役に立つか」
ってなことをちょいちょい言ってます。
恐竜好きからしたら「世界的な恐竜学者がなんでそんなこと言ってんの?」って怒りにも似た疑問を持ってしまう言葉です。
僕が思うに本人の真面目さもありますが、自分がやってることに疑問を持たないと成長は停止するよねーってことだと思います。
この本には何人か恐竜学者が登場しますが、みんな偉そうじゃなくて、弟子想いで、なにより自分の間違いを素直に認める人が多いよなって印象を受けました。本書でも小林先生が触れてますが、自分の未熟さを認めることが彼らの成長につながっている気がします。
それにしても、恐竜の研究者ってアメリカはもちろんの事、韓国、中国などなど世界各地の研究者とチームを組まないといけないんで、恐竜の研究に限りませんが世界的な研究者を育てるには英語教育と、世界中の人との仲良くなれる事が必須なんじゃないかと思ったり。その辺この国は大丈夫なんだろうか・・。
恐竜少年を発掘に連れて行こう
「恐竜研究は人の役に立つのか」ってのは要は研究者の向上心のことだよねーみたいなことを書きましたけど、じゃあ文字通りで役に立つのでしょうか?
答えはもちろんイエス!
なぜなら、小林先生をはじめ多くの恐竜学者が活躍することは、かつての恐竜少年少女の夢を叶えることとイコールだからです。
残念ながら、僕らのほとんどは大人になると恐竜とかかわる仕事に就くことはできません。かつての恐竜少年少女たちは、会社の慣習にぴったりはまって、好きだった恐竜のことも忘れていきます。
でも中には才能と運に秀でた人がいて、恐竜に関する仕事で活躍しています。
彼らは、僕らが叶えられなかった夢を叶えてくれています。
この本を読んで発掘を追体験して、僕は「恐竜でわくわくする気持ち」をまだ忘れていなかったことを嬉しく思うし、やっぱり世界を駆け巡る化石ハンターになりたかったな、と(実現不可能な)夢を苦々しく思い返したりします。
僕らにできることは、世界で活躍する人を応援すること。
それしかありません。
化石発掘のように地味な作業です。
しかし、むかわ町の様に沢山の人とお金を化石発掘のために動かせたのは、やっぱりいろんな人の応援や想いがあったからです。
そういった意味では、かつての恐竜少年少女たちへの任務は、地味ですが、重大なんじゃないでしょうか。