手に取ってみて驚いた。厚さ4センチになろうかという分厚い本だ。
タイトルは『北の無人駅から』
北海道の6つの無人駅を題材にしたノンフィクションだが、なにも鉄道マニアだけを対象にした内容では無い。
駅というのは不思議な場所で、そこから物語が生まれることが多い。
これは勝手なイメージだけど、バス停が物語を生み出すとしたら、きっとスポーツ飲料の爽やかなCM。駅が生み出す物語は人間模様を描く映画。そういう重さの違いがある。
駅っていうのはどうもその性質上、その土地と人の想いや情報なんかを染み込ませてしまうらしい。
この本では北海道の「無人駅」を入口に、そこにまつわる人や歴史、さらにはその先の「問題」まで著者が実際に訪ねて調べまくったストーリーが詰まっている。
791ページという膨大な枚数で登場する駅は6つ。小幌駅、茅沼駅、新十津川駅、北浜駅、増毛駅、奥白滝信号場だ。
この駅名からまさか、足のないアイヌの話、首のない観音像の話、タンチョウ問題、JAと米の問題・・・なんて話がでるとは想像がつかなかった。
過去の話を紐解くと、自然と現在につながる問題も引っ張り出されていく。問題に対する著者の解説も、いちいち「たしかにそうだよなー」とか思って、僕は終始感心しながら読んでいた。
地元の人の「訛り」も、親戚のおばちゃんが話しているようで良い感じである。
▼この本には本文の他、おまけ的な付属ページで用語解説されているのがまたいい。正直第2章の米の話は長すぎて飽きてしまったのだけど、この解説部分だけ読んでも面白いと思う。
そんなわけで、この本を読むと北海道の事がもっと良くわかると思う。
とりわけ昭和から平成あたりの、「自分の記憶の範疇外だけどわりと最近あったできごと」ってのが網羅されていると思う。
僕は年代的に「カニ族」のことは知らないんだけど、これをよんでから何となく上の世代から聞いた昔話に色がついた感じだ(ちなみに著者はミツバチ族だったそうだ)。
僕がどうしてこの本を面白がっているかというと、最近「調べまくってまとめた文章」というのにありつけていないからだと思う。
日々目にする文章は、何かのコメント何かの引用。コピーペーストされた全く同じ文章。反射的に出力されたリアルタイム140文字もきらいじゃないけど、そういう「お菓子」ばかりをいつのまにか食べている。
文字コンテンツも無料が当たり前みたいな時代だけど、こうやって取材して時間をかけた文章には、やっぱり対価を払ってしかるべきだよなあ、と思ったり。