前回 ↓ の続き
dosanko-camera.hatenablog.com
深夜0時過ぎ、僕らは暗闇で雪を掘っていた。
会社の駐車場で車が雪にはまったからだ。
せっかく雪から脱出した車は、我々の手により再び埋まったのである。
そして9時までに車を脱出させなければ、上司であるサイコパス黒腹の逆鱗に触れるのである。
さっき出たのだから、すぐ出るはず・・
さっき出たのだから、傷は浅いはず・・
そんな期待をあざ笑うかのように、タイヤは空回りし、車は動かない。
この日、札幌では今季いちばんの寒さを記録していた。
僕はアドレナリンが切れるにつれ、体を刺す痛みの様な寒さを感じはじめた。
帰宅途中だったので、ペラペラのブーツ、車庫に転がっていた軍手というLv2くらいの装備だったのである。
寒さで手足の指がちぎれそうだ。
体温で溶けた雪が再凍結し、軍手が指の形に凍り始めていた。
さぞT岡も寒かろうと見やると、案外楽しそうだ。
「いやーすっかりスタックしちゃったわー!」スタックという言葉がお気に召したらしい。
若干いらだちを感じながらも、僕は雪を掘り続けた。
※雪や泥に車が埋まることを「スタック」っていうんだって
指の感覚は無くなり、小さなくぼみにつまずいては転び、再びスコップを握る。
それでも、車は出ない。
到達点の無い労働とはなんと空虚なことだろう・・・・
時計が深夜1時をまわり、僕らは諦めて明朝集合することにした。
*
翌日7時30分、僕らは再び集結した。
上司が来るまであと1時間30分。
掘る、押す、掘る、押す・・・
アクセルを踏んでも昨夜と同じ光景が繰り返される。
僕は「くそう」という言葉を5分に1回言うようになっていた。
T岡は「どうすればいいんだ」しか言わなくなっていた。
時間が無い‥
「JAFを呼んだらいいんじゃないかな・・・」
しかし僕もT岡もJAFには加入していなかった。加入していなければ当然金がかかる。僕もT岡もわりと財布のひもは固いタイプである。
「JAFを呼んだらいいんじゃないかな・・・」
僕はもういちど言ってみたが、受取人のいない言葉は寒空へと消えていった。
もはやこれまでか
それまでの人生が走馬灯のようにきらきらと駆け巡った。
飽きらめかけた僕の横に、1台の大きなバンがとまった。
「押すかーい?」
バンから出てきたのは大きいおっさんと小さいおっさんの凸凹コンビだった。
たぶん、近くの除雪業者の人たちである。
大きいおっさんが「押すかーい?」といっているのだ。奇跡と言わず何と言おう!
おねがいしゃーす!!泣
凸凹のおっさん達の力は強力であった。
大きい方のおっさんは僕よりずっと背が高く、NBAの選手みたいだ。ちっちゃいおっさんは小さいKONISHIKIのようである。
T岡がアクセルを踏み、おっさんたちがうんうんと何度も車体を揺らすと、車はどっこらっしょ、という感じでスタック状態を脱したのである。
あ、あああありがとうございまーす!!
何かお礼をしたい僕たちだったが、凸凹のおっさん達は颯爽とバンに乗り去って行ったのであった。
同じように埋まった人がいたら、僕も助けてあげよう。凸凹のおっさん達のように‥。
おわり
*
今回の教訓
▼車に付属されているジャッキは雪の上ではくそも使い物になりません。
地面がでこぼこだと水平を保てないので。
▼堅い雪を掘るには「剣先スコップ」や「角スコップ」がおすすめ。重ければ重いほど優秀。軽量アルミスコップやプラスコップは役立たずだった。
スコップにもいろんな種類があるなあ。
タイヤに板をかませたけど、木片が飛び散ってまじで危ないのでやめた方がいいです。
ほんとは使わない毛布をかませるといいらしいんだけど、そんなの車に積んでないよね