8月に入り連日北海道を襲った4つの台風。
特に被害の大きかった台風10号について考えたいと思います。
4つの台風の詳細な記事はこちらに書きました。
台風10号は北海道に上陸こそしなかったものの、3つの台風が上陸した後に北海道へ急接近したため、最も大きいダメージを与えました。
台風10号に絞って主な出来事と共に推移をまとめてみます。
8月19日
八丈島の海上で台風発生。ゆっくりと南下し日本を離れるかと思われたが、数日間海上に停滞。進路を北に変え、Uターンするように日本へ向かった。
8月30日
岩手県大船渡市に上陸、北海道の一部で避難始まる。
8月31日
【未明】
芽室川(芽室町)が氾濫し、橋が崩落・・・芽室町の住宅街が浸水。
新得町(パンケシントク川)、清水町(ペケレベツ川)、大樹町(ヌビナイ川)で車3台が川に転落し、3名が行方不明になる。(2名死亡、1名行方不明)
【早朝】
南富良野町で空知川の堤防が決壊・・・町の中心部が濁流にのまれ、住民は屋根や車の上に避難。一時200名が孤立。道警のヘリが救出に向かう。
町指定の避難所である公民館の1階の玄関、窓ガラスから濁流が流れ込み、自衛隊が救出に向かった。当時100名以上が避難所にいたが、ロープをつたって500m離れた小学校に避難した。
新得町全域が断水。
帯広市札内川氾濫。
日高町沙流川が増水・・日高町ではチロロ橋が崩落し一部住民が孤立。床上浸水多数。
【日中】
清水町、南富良野町でケーブルが切れ通話不能になり、緊急電話も一時不通になる。
【夕方】
橋の流失や倒木によりJRは280本が運休。北海道新幹線を含む札幌ー函館間の特急も終日運休。
記述したものも含め、北海道では計12の河川が氾濫した。
犠牲者が出なかったのは奇跡。南富良野町のこと。
上記をご覧の通り、南富良野町では安全であるはずの避難所が濁流にのまれ、住民が避難先から別の避難所へ避難しています。
避難所は、自然災害の被害を予測した「ハザードマップ」により自治体が決めていました。しかし、このハザードマップでは洪水に襲われた避難所があった場所は、浸水の危険性は無い場所になっていました。
ここまで洪水はこないから大丈夫だろう。という予想を裏切り、濁流が町に押し寄せたのです。
これが南富良野町のハザードマップですが、きれいに真っ白。
http://town.minamifurano.hokkaido.jp/wp-content/uploads/2015/02/7ikutorachiku.pdf
記事を更新した時点では今回の台風の被害は反映されていないようです。
これは南富良野町だけに言えることではありません。避難所をきめるのはやっぱり基準が必要で、その基準はどこもハザードマップに頼っています。
逃げるほうは避難先を信じて行動するしかないので、今回の台風の教訓として、自治体は避難所の見直しも考えなければいけないかもしれません。
誰かが考えてくれたハザードマップにお任せするのも結構ですが、自分の町の過去の災害をデータベース化するなりすれば、だいたい怪しい地形なんて見えてくるはずです。
ましてや北海道は歴史が100年そこそこですから。
ハザードマップは確かに良い面もあります。危険区域に住んでいる人達は、いざというときに早く避難しないといけない、と思えます。でも逆の場合は、この地域は安全だから、と避難が遅れる要因にもなるんですね。
南富良野町の洪水が来た地域を見てみると、氾濫した空知川だけでなく、松井川、ユクトラシュベツ川に囲まれ、町の側にはかなやま湖もあります。
これだけ河川や湖が近くにあったら洪水が起きても不思議はないんだけど、町も大丈夫だって言ってるし。 でも町のほうでは、ハザードマップに基づいてますからね。と。
「危なそう」という感覚は、こうやって消えていくのかもしれません。
個人も自治体もハザードマップの過信は禁物のようです。災害に関しては常に悪いほうに比重をおいて考えないけません。
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南富良野町では老人ホームも洪水の被害に遭いましたが、幸い死者行方不明者はありませんでした。
おなじ台風10号の被害を受けた岩手県のグループホームでは、入所者9名が亡くなっています。
しかし、たまたま立地条件の影響で水に飲み込まれなかったというだけで、両事案は間違えれば同じ結果になったかもしれません。
こういった施設の災害弱者の避難は、ほとんど施設にまかせっきりというのが現状です。
南富良野町では施設の職員が避難指示を受けましたが、平屋の施設には逃げ場がありません。入所者をテーブルの上に乗せなるべく高いところに上げたそうです。
未明には濁流が施設に流れ込み、職員は入所者を乗せたテーブルを押しながら別の施設へ避難しました。
施設が平屋建てで逃げ場がなかったというのは岩手県のケースと同じです。避難するのが難しい人がいながら、避難する場所が無いなんてどうしようもないんじゃないでしょうか。
こういった施設はだいたい職員より入居者の数が多く、それをどこかに移動させるだけでも大変ですが、災害が早朝や未明に起こった場合、職員の数はさらに少なくなります。南富良野町の老人ホームの中に水が押し寄せたのは午前3時でした。
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避難そのもののほかに重要なのが、避難指示が出なかったという点です。
ここでちょっと避難情報のレベルについてみてみます。
【避難準備情報】(災害弱者に対するもの)
住民に対して避難準備を呼び掛けるともに、高齢者や障がい者などの災害時要援護者に対して、早めの段階で避難行動を開始することを求めるもの。
↓
【避難勧告】
災害によって被害が予想される地域の住民に対して、避難を勧めるもの。
↓
【避難指示】
住民に対し、避難勧告よりも強く避難を求めるもの。避難勧告よりも急を要する場合や人に被害が出る危険性が非常に高まった場合に発表される。ただちに避難する。
下に行くほど拘束力は高くなります。
避難に時間がかかる人に先に準備をしてもらい、それから避難する。という事です。
9名が亡くなった岩手県のケースでは、町内全域に避難準備情報をだしています。その後、避難勧告が出されましたが、このグループホームがあった地区は、大丈夫だろう。ということで避難勧告が出されませんでした。
南富良野についても同じようなことが。先に述べたハザードマップで見たように、この地域は浸水しないだろう。と思われていたため。災害弱者に対する避難準備は不要と判断され、呼びかけされていませんでした。
明暗を分けたのは職員の迅速な対応でしたが、立地条件が悪ければ最悪の事態も考えられたと思います。
ハザードマップも避難先も避難勧告も信用できない。
これが近年の災害の特徴に思えてきます。
そもそも何かに頼る避難は正しいんでしょうか。
避難先が危険ならば避難しなければならないし、指示されなくても危ないと思ったら逃げる。空振りの避難を恥ずかしがらないことが必要なようです。
データや情報で頭でっかちになった現代人の一番苦手な、「その場の状況判断」が必要なのかもしれません。危なかったら逃げる。自分の命は自分で守る。想定外でした。なんておばかの言葉で片づけられても、死んでしまったら恨むこともできません。
JRは元に戻るのか。
ご存知の通りJR北海道は赤字です。
2016年3月期決算では営業損益が447億円という大赤字です。
加えて北海道新幹線を札幌に通すため、こちらの費用も莫大です。
このためJRは7月に「当社単独では維持することが困難な線区」を発表。
JRは協議したいとしていますが、事実上廃線候補路線という事でしょう。
・宗谷本線・名寄~稚内
・根室本線・滝川~新得、釧路~根室
・留萌本線・深川~留萌~増毛(留萌~増毛間は2016年12月廃止)
・石勝線・新夕張~夕張(廃止決定)
・札沼線・北海道医療大学~新十津川
・日高本線・苫小牧~様似
さらに今回の台風による特急運休などで約40億円の減収になると発表しています。
各地で土砂崩れ、線路が流され、橋が落ち、復旧にかかる工事費は数億円に上るでしょう。赤字の上にこの台風の被害。廃線候補路線はどうなってしまうんでしょう。
あやういのは根室本線で、まさかこのまま廃止にする気なんじゃないかと心配です。
都市部に新幹線を通すのも結構ですが、台風が来たことで状況は変わっています。
JRの経営と復旧はべつものと思いますが、気のせいでしょうか。
札幌都市部の被害が少なかったせいか、最近はほとんど台風関連のニュースは見なくなりました。被害地域の復旧はどの程度進んでいるんでしょう。