歴史的建造物をたくさん見ていると、それを見ただけで建てられたのがいつ頃かわかってくるのである。先日など「さあこれはいつ建てられたのでしょう」という声が聞こえてきたので振り向くと、あれ、北菓楼の札幌本館じゃないですか。
幾何学的というかスクエアを多用した都会的な外装。
そんなシティー的なイメージとはあんまり合わないジャイアントオーダー。
ジャイアントオーダーっていうのはこの神殿の柱みたいなやつね。
んーそうね、ハロルド・ロイドが上から落ちてきそうなデザインだから1920年代くらいじゃいないの?
「当りです。1926年に建てられたんですよ。」
壁に向かってそんな話をしていると通行人が今にも通報しそうな顔でこちらを見ているので中に入ってみましょう。
こちらは北海道のお菓子屋さん「北菓楼」の札幌本館。北菓楼の本店は札幌ではなく砂川市にあるのですが、北海道の中心地は札幌なんで札幌にも拠点があった方がいいだろうという事でつくられたんだろうと勝手に想像しています。
建物自体は1926年築だが、北菓楼の店舗として利用し始めたのは2016年。この入口はその時新設されたもの。
季節の花など飾られて小奇麗です。
1階は北菓楼の店舗、2階はカフェスペースになっている。
店舗といっても売られているのは「開拓おかき」とか「妖精バウムクーヘン」とか、字面を見るだけで味がわかるような道民にとっておなじみのお菓子しかない。
よってここはスルーしてよろしいと僕の頭が判断したのだが、後になって札幌本館限定のお菓子があることを思い出した。
「クラシックショコラ夢がさね 」、「チョコサンドクッキー北海道廳立圖書館」 、「クロワッサンシュー夢句路輪賛」の3つである。
小麦粉、砂糖、チョコレートで作られている限りだいたいの味は想像できるが、限定という言葉にひかれた方は手に取ってほしい。
このうち「チョコサンドクッキー北海道廳立圖書館」は本の形をしているんだけど、それはこの建物が北海道で初めての本格的な図書館として建てられたことに由来する。
ここはその昔図書館だったのだ。
もうそれだけでロマンチックでしょうそうでしょう。
2階へ続く階段はとっても美しいんでぜひ見てほしい。
建物の外観とはちょっと違う柔和なデザインになっている。
2階は建物が増設・補強され、カフェスペースになっている。
この建物の新デザインはなんと安藤忠雄氏が手掛けたらしい。
カフェスペースには600冊の本がずらり。
図書館であったことをリスペクトして設けられたらしい。カフェを利用すれば自由に読めるが、読んでいる人はひとりもいなかった。一番上の棚から俺はお飾りじゃねえんだぞ。という声が聞こえてきそうな気がした。
もともとの建物とはこんな感じでつながっております。
2階には小さいながらもこの建物の歴史を紹介するコーナーが。
図書館として活躍していた頃の写真
北海道にもやっと図書館ができた!!ってことで利用者が殺到したけど、あまりの蔵書の少なさに多くの人ががっかりしたそうだ。
なぜみんな頭を抱えているのでだろう。読みたかった本が無かったけど足を踏み入れた以上読みたくもない本を読んでいるんだろうか。
当時使用されていた椅子など。
さて何名かの道産子は、「北海道立図書館は江別市にあるんじゃ?」と思ったのでは。
それもそのはず、1967年に道立図書館は札幌市から江別市へ移設され、北海道立図書館は「都道府県庁所在地に所在していない都道府県立図書館」となったのです。
その原因というかきっかけになったのはこちらの大量の本。
昭和38年、40年に、栗田ブックセンターから国内図書約13万冊が寄贈されました。急に13万冊も本が増えたら図書館にだって入りきらないでしょうこれは大変だってことで場所を移したようです。
これらの本は江別の道立図書館に「栗田文庫」として今でも蔵書されとります。
そのためこの建物は図書館としてはお役御免となり、その後は美術館や文書館別館として活躍。そして現在は北菓楼の店舗に落ち着いたわけです。
あ、カフェメニューについて書き忘れましたがその辺の情報は腐るほどあると思うんでもう腐っているかもしれませんが検索してみてください。
札幌創世期からの歴史が随所に散りばめられとりますんでカフェを利用しなくとも建物を愛でるだけの価値はあると思います。
最後に、北菓楼入口にある樹齢140年の針桐の大木。
これはかつて札幌の表参道が北海道神宮へ続いていた時の街路樹の生き残りなんだそうです。
よくチャチャニレの木と混同されますが、チャチャニレの木はとうの昔に伐採されて現存しません。お友達にも「これはチャチャニレの木ではなく針桐の樹だよ」と教えてあげて下さいね。きっと当惑されること間違いなしです。